意と匠研究所

vol.4 20世紀後半から加速する工芸の多様化

2019年7月5日

 「工芸事業者によるアート運動」であるファインクラフト運動は、工芸の多様化を加速させている。アートやプロダクトとも関連づけた工芸の多様化の歴史については、添付の図「多様化が加速するクラフト」(作成:意と匠研究所)を参照してほしい。工芸は、アート分野の彫刻や絵画の技術や表現をベースに、暮らしの道具である器などの生産として始まったとされている。長い年月を経て進化・伝統化した工芸(伝統工芸)は、産業革命後の19世紀中頃、量産化を育む基礎技術となり、プロダクト(工業製品)へと分派するとともに、デザインという新たなクリエーティブも生んだ。これは、工業社会の誕生でもあった。

 自らが生んだとも言える工業社会の台頭により、工芸は工業との競合関係に陥り、安価で近代的な暮らしの道具を求める市場の人々から敬遠され始めた。これが、今日まで続く工芸の衰退の端緒と言える。同時にここから、工芸の多様化が始まる。特に日本では、20世紀の後半あたりから、工芸は工業・商業分野のデザイナーと手を組み、近代的な暮らしに合った工芸「モダンクラフト」を生んだ。現代の市場特徴を前提とし、ある程度の量産を目指したモダンクラフトの開発は、政府や自治体などの支援を受け、今日も活発に行われており、作り手と使い手の乖離が閉塞感を生んでいる工業社会を見直す契機にもなっている。

 21世紀に入り、ファインクラフト運動が起こると、工芸から新たに2つのジャンルが派生する。その1つが「ファインクラフト」であり、もう1つが高級でハイセンスな工芸資材「ハイクラフト」である(ハイクラフトの誕生はもう少し前と見られる)。レベラションでも、ファインクラフトとハイクラフトの2つが展示品の主流である。

 アートや工芸、プロダクトが、視覚的であれ、体験的であれ、精神的であれ、ある種の「美」を追求するとすれば、伝統工芸やハイクラフト、モダンクラフトは「用の美」を求めている。これに対してプロダクトは、「機能美」を追求する。では、アート運動としてアートに急接近するファインクラフトは、どんな美を追求するべきなのか? まだ、明確な答えはないが、これが用の美や機能美とは違う意味や価値を持つべきことだけは確かである。人間が生きることの本質に迫らなければ、見えてこないのではないか。(下川一哉)

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