意と匠研究所

vol.8 ファインクラフトが導く3つの効果

2019年8月17日

 「工芸事業者によるアート運動」であるファインクラフト運動は、日本の工芸事業者に期待と新たな可能性をもたらそうとしている。今回、これらを「工芸事業者がファインクラフトに取り組むことで期待できる効果」としてまとめてみた。期待できる効果は3つある。「新規市場開拓効果」「ブランディング効果」「小規模事業対応効果」である。

 新規市場開拓効果で言う新規市場とは、工芸事業者がこれまでに開拓してきた工芸市場ではなく、巨大マーケットであるアート市場や、ファインクラフト運動が形成しようとしているファインクラフト市場を指す。ファインクラフト市場は、アート市場に近く、少量生産あるいは1点制作の作品が高額で取引される工芸市場のことを指している。新規市場開拓には困難も伴うだろうが、価格弾力性が低い市場なので、価格競争に陥る可能性が低く、価格決定権も事業者側で確保し得る。

 ブランディング効果とは、ファインクラフト運動で事業者の作品が高く評価されるに伴い、事業者の企業ブランドや既存の商品ブランドの価値も底上げされ、事業全体を優位に導く効果を言う。ファインクラフトの作品を頂点に置き、既存の商品をその下に置くピラミッド型のブランディング戦略も可能だろう。こうしたブランディング効果自体には、前例がある。人間国宝が経営する工芸事業所の多くは、人間国宝自身が制作する作品ラインと、工房の職人がある程度の量産に当たる商品ラインを持っている。作品ラインへの高い評価が、商品ラインの価値も上げ、優位な価格設定と取り引きを可能にしている。

 小規模事業対応効果とは、工芸事業者の事業規模が小さくても、低いリスクでファインクラフトに取り組める効果を指している。少量生産もしくは1点制作から始めることができるファインクラフトには、追加の設備投資がほとんど必要ない。また、2年に1回開催されるレベラションでの発表を基本にすれば、新作の制作に2年弱をかけることができる。事業所のやりくりで、既存事業とファインクラフトとの両立は可能である。以上が、「工芸事業者がファインクラフトに取り組むことで期待できる効果」である。このように期待できる効果があるから、意と匠研究所は、日本の工芸事業者や彼らを取り巻く支援者やクリエーターに、レベラション2019報告をお届けしている。(下川一哉)

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