意と匠研究所

vol.10 伝統的な結城紬を世界のインテリア市場に

2019年8月31日

 日本からのレベラション出展者で最後にご紹介するのは、茨城県結城市の結城紬の産地問屋、奧順である。奥順のブースでは、同社デザイン室で生産とPRを担当する奥澤裕子氏が商談を行っていた。出品作は、フランス人テキスタイルデザイナーのアイサ・ディオン氏と共同開発したテキスタイルである。これはいわゆる鑑賞のためのアートではないが、建築家やインテリアデザイナーに向けたハイクラフトとして提案した。

 結城紬は2010年にユネスコ無形文化遺産に登録され、産地内外で世界市場を開く期待が高まり始めている。奥順も然りで、新規事業としてファッション市場への道を探ったと言う。しかし春夏、秋冬と、新作を1年に2回発表しなければならないスピード感と、コストに見合わない市場価格に対し、「難しさを感じていた」と吐露する。そこでインテリア市場へと方向を切り替え、2017年よりテキスタイルコレクションを発表し始めた。それもディオン氏との出会いがあったためだ。

 元々、奥順とディオン氏との出会いは、米国ニューヨークでの見本市だったと言う。その後も見本市等で、両者は何度か会う機会を持った。決定打となったのは2011年。フランス・パリでのファッション業界に向けた素材の見本市「プルミエール・ヴィジョン」開催に向けて、ディレクターが来日し、奥順を訪問。生産現場を視察したうえで、世界の伝統的な織物にフォーカスした出展ブースに、奥順を招待したのだ。2011年の「プルミエール・ヴィジョン」に出品した奥順は、ルイ・ヴィトンにテキスタイルが採用されるなど、大きなビジネスチャンスをつかむ。同ブースに連続して出品した奥順は、2015年にディオン氏と再会し、奥順の独特なテキスタイルに共感を得た彼女から、「私とコラボレートしないか?」と誘われたのだった。


 こうして奥順は日本の手織物技術と現代のデザインを融合させた、テキスタイルコレクション「Aissa Dione for OKUJUN」をデビューさせた。ディオン氏と共に、インテリア市場向けに生地を40種ほど開発したのである。「柔軟な発想を持つアーティスト肌のディオン氏と、日本の伝統工芸特有の頑固気質な製作現場の職人たちとは、ある種、対照的。共同開発を進めるうえで、ディレクション側と製作側とで衝突することが多々あり、一筋縄ではいかなかった。でも挑戦することは大事だと痛感した」と奥澤氏は振り返る。また職人たちは失敗を恐れるために、新しい事業に対して抵抗感を示すことも多い。奥澤氏はそうした職人たちを根気よくまとめながら、時間を掛けて開発に臨んだ。

 レベラションへの出展は2回目。2017年に初めて出展した際には、高級住宅の内装材としてテキスタイルが採用された。「インテリア市場に進出したのは正解だった。品質、オリジナリティー、デザイン性が伴う素材であれば、コストに見合った単価が受け入れられる」と確かな手応えを得る。さらに奥澤氏は「レベラションは、高品質かつ個性的なノウハウの手仕事や手織物を伝えるのに、世界の数ある見本市の中でも最も適した場」と見る。来場者はアート関係者が多く、感度の高い人々が自然と集まるほか、建築家やインテリアデザイナーが「個性的なノウハウやテクニックを探す場」としてもレベラションを利用するのだと言う。奥順にとってレベラションは、まさに世界市場進出への第1歩に相応しい桧舞台となった。(杉江あこ)

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