意と匠研究所

japanで継いだchinaの美

2014年5月27日

日常に使う道具に、破損や故障は付きものだ。愛着や思い出のあるものなら、修理して使いたい。修理して使うから、愛着も湧く。素材によっては、使い手自身が修理することも可能だが、専門家に任せた方が美しく仕上がることが多い。作ることと修理することには、同じくらいの価値があるに違いない。そう思わせる修理の技を目の当たりにすると、モノ作りが持つ文化の奥行きに心が暖まる。作り手と使い手のつながりも、より堅固となるに違いない。

佐賀県有田町は言わずと知れた磁器の産地。我が家の食器棚にも多くの有田焼、伊万里焼が並ぶ。少々高価なものでも日常的に使うから、次々に破損する。床に落として粉々に割れたものもあれば、焼物同士がぶつかって縁が欠けた程度のものもある。我が家ではこれらを1年に1度、まとめて金継(きんつぎ)をお願いする。

金継は、割れた焼物の破片を、漆を接着剤に継ぐ修理方法のこと。つまり、chinaをjapanで継いでいるのだ。江戸時代に広く普及した修理法と言われ、モノを大事に使った先人の工夫である。金を漆に溶いて継ぐ手法が今や一般的で、割れ方や継ぎ方によっては金色の線や点、面が焼物に加わり、ある種の見所や景色にもなる。

有田町には、県立の有田窯業大学校がある。ここには金継のカリキュラムもあり、実践を兼ねて金継を引き受けてくれる。レベルは非常に高く、継いだ後で焼物を指先で弾くと「キン」と金属音が鳴る。きれいに継がれている証しだ。

金継をはじめとした修理サービスに対して、産地内でも賛否両論がある。修理をするから新品が売れなくなる、と反対する者も当然いる。逆に、修理サービスがあるから、高額のものでも売れる。そう考える者もいる。修理を、作り手と使い手を繋ぐモノ作りの文化の一部と考える。結論は出ないが、私は後者を支持する。少なくとも私が少々値の張る有田焼を買うのは、この金継の技を産地自身が大事に受け継いでいるからだ。金継を施した焼物に「双美人」「大槻ケンヂ」「くちばしに草」などと銘を付けて楽しんでいる。(下川一哉)

口に草

●注ぎ口を欠いた柿右衛門の急須。金継を施すと、口の先に金色の草が絡まっているよう。銘は「くちばしに草」

双美人

●金継の名作「双美人」。井上萬二窯のプロダクト。2つを同じように割った家人の名作

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