意と匠研究所

意外に攻撃的で強権的な成り立ち

(セイ・ショウ・ただしい・ただす など)

漢字「美」の成り立ちを調べるうちに、正しいことに通じるような印象を得た。そこで、今回は漢字「正」の成り立ちと意味について考察したい。「正」は会意文字で、「一」と「止」を組み合わせた形である。「一」はもともと城郭を表す「口」で、「止」は足跡の形を示す。つまり、城郭に向かって人が進む様なのであり、攻撃して、服従させる意味として出発した漢字である。

この文脈で「正」が使われるようになった漢字に「政」や「征」がある。「征」は従わせた民に税を課すことをいい、そうした支配の仕方を「政」と言ったらしい。征服し、課税することを正当化することが政治の原点ということだろう。こうした行為を、今日我々が正しいと認識できるかと首をかしげたくなるが、現代の政治が古代中国時代の「正」の精神を受け継いでいることだけは間違いなさそうだ。

戦時下の微妙な時期に、腸薬の商品名「征露丸」を「正露丸」に改めたというエピソードは有名だ。ロシア(ソ連)を征服するという威勢の良いネーミングを一転、国際情勢に配慮し、ロシアは正しいという表現にしたと言う。しかし、漢字「正」はそんな優しげな文字ではなかった。征を正に換えたところで、真意はあまり変わっていなかったとも言える。先人たちはそこまで考えていたのだろうか? とにかく、「正」はネーミングやキャッチフレーズに迂闊に使えない漢字なのだ。(下川一哉)

参考文献:『常用字解』(白川静/平凡社)

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