意と匠研究所

「綺麗」「格好いい」とは違う価値

(ビ・ミ・うつくしい など)

「美」という意識こそ、現代社会に求められる価値はほかにないのではないか。誰もが美しくありたいし、未来を美しくしたいと思う。半面、美という漢字が持つ成り立ちや本来の意味を正しく理解しないまま安易に使い、美の本質を見失っていないだろうか。もしくは「綺麗だね」「カッコいい!」のような表現に逃げていないだろうか。「美」を正しく理解し、現代のクリエーションにもっとうまく使いたい。

「美」という漢字は「羊」と「大」で成り立つ象形文字だ。人が神に捧げる生贄の「羊」が自ら堂々と足を大きく構えている様を指す。人と神の関係、人と羊の関係など、信仰や哲学などの精神性が深く関わっている。外見より、内面に起因する価値観を表す漢字なのだ。内面の充実が外観に滲み出る価値と言い換えてもいい。そこには、揺るがない自信や信条があるはずだ。そう理解すれば、「美人」とは何か? 「美しいデザイン」とは何か? そうした疑問を深掘りできる。「綺麗な人」「カッコいいデザイン」とは根本で異なる。議論や提案の厚みは増すだろう。同じ成り立ちの漢字に「義」や「善」があることも見落としたくない。漢字の国に生まれたことをもっと喜び、人生に生かそう。(下川一哉)

参考文献:『常用字解』(白川静/平凡社)

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