意と匠研究所

沖縄伝統工芸の前後左右に気付く

2014年7月7日

この6月25日から27日まで、NPOメイド・イン・ジャパン・プロジェクト主催の沖縄クリエイションツアーに参加。沖縄の伝統工芸を支える多くの 職人に出会い、伝統の技を支え次代に伝える取り組みを目の当たりにし、出荷量の減少など厳しい現状を乗り越えようとする姿に心打たれた。

沖 縄県本部町で工房「藍風」を営む城間正直氏は、伝統の琉球藍を使った染色を行い、若い職人を指導しながら、現代の生活にも受け入れられる衣類や生活雑貨の 製造・販売を行っている。最近では、グラーデーションの美しいスカーフや、沖縄の住宅に多く使われるブロック塀のパターンを引用したトートバッグなどの開 発も試み、首都圏などの市場開拓にも努めている。

城間氏が染色の原料に用いる琉球藍は、沖縄県内の山間部で栽培されるキツネノマゴ科の植 物 を原料に手作りで生産される。需要の減少と、生産の難しさから、琉球藍の生産量が減り、藍染め産業の先行きにも影を落としている。しかし、城間氏は自らの 工房の付近で琉球藍の原料となる植物の栽培を始めるなど、染色という2次産業に欠かせない1次産業へも活動の幅を広げようとしている。

藍の染色

●藍風で染色を行う若い女性の職人。染色した布を水洗いしている

藍の栽培

●藍風の城間氏が栽培する琉球藍の原料となる植物。山間部の日陰を好む

2 次産業である伝統工芸が1次産業と強く結び付いている例は、ほかにもある。大宜味村の芭蕉布会館では、芭蕉布の生産とともに、布の原料となる糸芭蕉の栽培 も行っている。糸芭蕉は自生しているのではなく、専門の農家や芭蕉布職人が畑を造って栽培し、糸の生産に最適に育つように手入れを行って管理している。そ の作業が面倒で、需要も減っているため、栽培面積は減っている。そこで、芭蕉布会館に籍を置く芭蕉布職人らが自ら使用するための糸芭蕉を工房近くで栽培・ 管理しているのである。

糸芭蕉から製糸した糸を染める際に使う植物染料は様々。中には、松科の植物の樹皮など、入手が難しくなっているも の もある。林業に携わる人々の廃業などが主な原因である。生産量の減る琉球藍もそうした不安を抱える原料の1つである。つまり、琉球藍は、藍染めや芭蕉布に 欠かせない素材であり、その衰退は藍染めや芭蕉布の将来にも不安をもたらす。反対に、藍染めや芭蕉布の出荷量の減少は、琉球藍の需要減となり、琉球藍の産 業規模の縮小にもつながる。

芭蕉布染色

●芭蕉布を織るために糸を染める。琉球藍のほか、様々な植物原料の染料が使われる

糸芭蕉栽培

●芭蕉布会館の職人が栽培・管理する糸芭蕉の畑

伝 統工芸への公的支援や、モノ作りを通じた地域活性は、日本全国で継続的に行われている。しかし、沖縄県のように伝統工芸の左右のつながりが深く、さらに1 次産業などとの前後のかかわりが密な産地の場合、全体の産業“生態系”を見据えた取り組みが欠かせない。つながりの強化が、産地の底力に結び付く。単に効 率化を求めるのではなく、つながりの中で産地の個性を際立たせることで、競争力を向上させたい。(下川一哉)

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