意と匠研究所

vol.6 金箔や花びらを用いた幻想的な刺繍作品

2019年8月6日

黒く細い糸で丁寧に刺し込まれた双子の少女の顔や、フクロウ、サル、ライオンの顔。「Sleeping Twins -2-」や「Sleeping Owl」といった作品名のとおり、よく見ると、いずれも静かに目を閉じて眠っている……。さらに鮮やかな黄色や青緑色、金箔のプリザードフラワーのアジサイの花びらが周りに貼り付けられ、幻想的な世界をつくり上げている。

刺繍作家、杉浦今日子氏の作品は、ほのぼのとした既存の刺繍作品とは一線を画し、不思議な魅力に溢れていた。レベラションでは1作品につき600〜1200ユーロの値段で展示。主に個人コレクターが購入していくと言う。

杉浦氏はフランスに住んで10年。元々、東京で刺繍教室の講師や刺繍を生かしたバッグ製作などをしていたが、「一度、東京を離れてみようと思い立ち、夫婦でパリに移り住んだ」と話す。幸いなことに、フランスのモード界では刺繍がブームだったこともあり、パリの刺繍専門アトリエで職を得た。そのアトリエでは、シャネルやクリスチャン・ディオールなど一流ファッションブランドのオートクチュールの刺繍を請け負っていた。こうして杉浦氏は世界トップレベルの刺繍技法を身に付けたうえで、独自の素材やモチーフを探し出し、刺繍作家としての才能を開花させたのである。

杉浦氏がレベラションへ出展したのは、今回で2回目。レベラションを主催するフランス工芸作家組合(Ateliers d’Art de France)の会員だったことから、出展を勧められた。日本の工芸についてどう感じているかを聞くと、「フランス人アーティストの中には、日本の工芸に影響を受けている人が多い。その高い技術はもっと評価されてもいいのでは」と話す。技術に裏付けされた作品づくりを特徴とする、彼女らしい発言だ。(杉江あこ)

※作品写真/杉浦岳史

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